半導体チップが完成するまでには、目に見えないほど微細な加工を繰り返す「半導体プロセス」と呼ばれる工程があります。このプロセスは、トランジスタを作り込む「前工程」と、チップを組み立てる「後工程」に大きく分かれます。
この記事では、半導体プロセス全体の流れと、その中で使われるシリコンウェーハやプロセスの特徴をわかりやすく整理します。
半導体製品の種類と材料の違い
半導体とひとことで言っても、製品や用途によって構成や目的は大きく異なります。自動車を例にすれば、レース用のF1マシンから大型トレーラーまで存在するように、半導体にも多様な種類があり、用途によって最適な材料や構造が選ばれています。
材料による分類
半導体の材料は、大きく「単元素系」と「化合物系」に分けられます。単元素系の代表がシリコン(Si)で、現在のロジックICやメモリの大半に使われています。一方、化合物系(GaAs、GaNなど)は光通信や高周波デバイス、オプトエレクトロニクス製品に多く用いられます。
本記事では、主に単結晶シリコンウェーハを用いたロジックICやメモリ製品の製造プロセスを中心に解説します。
「プロセス」と呼ばれる理由
半導体業界では、製造工程を一般に「プロセス」と呼びます。これはテレビや自動車のような組み立て作業(アセンブリ)とは異なり、目に見えない微細な加工を繰り返す工程であることが関係しています。
ナノメートル(nm)単位で進む加工は、人の目では確認できません。また、半導体は1個ずつではなく、1枚のウェーハ上に多数同時に作り、最後に分割するという特徴を持っています。このように、抽象的かつ連続的に進行する加工を総称して「プロセス」と呼ぶようになったと考えられます。
半導体プロセスの2分類
半導体の製造は、大きく前工程(ウェーハプロセス)と後工程(組み立て・実装)に分かれます。
それぞれの特徴を理解することで、チップがどのように完成していくかをイメージしやすくなります。
前工程(ウェーハプロセス)
前工程は、シリコンウェーハ上に素子や配線を形成していく工程です。フォトリソグラフィ・エッチング・成膜・拡散・イオン注入・CMPなどの6大プロセスを何度も繰り返しながら、トランジスタや配線層を積み重ねていきます。この繰り返し性から、前工程は「循環型プロセス」とも呼ばれます。
後工程(組み立て・パッケージ)
後工程は、完成したウェーハを切り分け、個々のチップをパッケージ化して出荷する工程です。こちらは工程が一方向に流れるため、「フロー型プロセス」と表現されます。後工程では、ワイヤボンディングやモールディング、最終検査などが行われます。
フロントエンドとバックエンドの違い
前工程はさらに、「フロントエンド」と「バックエンド」に分かれます。両者は目的や技術条件が異なり、必要な装置やクリーン度も大きく変わります。
フロントエンド
フロントエンドでは、シリコンウェーハ上にトランジスタなどのデバイス構造を作り込みます。
ここで扱う加工寸法は数十nmレベルで、極めて高い清浄度と精密制御が求められます。このため、クリーンルーム内の空気中粒子数や装置内部の汚染レベルも厳しく管理されています。
バックエンド
バックエンドでは、トランジスタ間をつなぐ配線を形成します。配線の多層化が進む現代では、層間絶縁膜やCu配線の形成に加えて、CMPによる平坦化技術が不可欠です。この工程では、膜厚制御・選択性・ダメージ低減などのパラメータ最適化が鍵となります。
シリコンウェーハの構造と製造方法
半導体チップの土台となるシリコンウェーハは、単結晶のシリコンインゴットを加工して作られます。
インゴットとは、シリコンを塊状に結晶成長させたもので、これをワイヤソーで薄く切り出し、円盤状に仕上げます。
ミラー面とサンドブラスト面
ウェーハには「表面」と「裏面」があり、それぞれ仕上げ方が異なります。表面はデバイスを形成する面で、鏡のように滑らかな仕上げが施されているため「ミラー面」と呼ばれます。
一方、裏面は粗い研磨仕上げで「サンドブラスト面」と呼ばれます。ロジックやメモリのような高性能LSIは、このミラー面側にのみ作製されます。
ウェーハの薄型化
後工程では、完成したウェーハをチップ単位に切り出す前に「バックグラインド」と呼ばれる薄型化処理を行います。これは、パッケージ実装時の放熱性や耐衝撃性を高めるために重要な工程です。
半導体製造と投資コストの関係
微細化の進展に伴い、装置やファブ(製造工場)には高い清浄度が求められています。ナノレベルの加工では、空気中の微粒子ひとつが欠陥の原因となるため、クリーンルームの環境制御や装置構造が極めて重要です。
このため、最新世代の半導体ファブは建設コストが数千億円規模に達し、製造装置も非常に高額です。製造技術の進化は、単に性能向上だけでなく、投資回収や歩留まり改善とのバランスの上に成り立っています。
まとめ
半導体プロセスは、目に見えないナノスケールの加工を積み重ねてチップを完成させる技術体系です。
「プロセス」と呼ばれるのは、微細で抽象的な工程を繰り返すからであり、製造現場の知見と科学的管理の結晶といえます。前工程・後工程、フロントエンド・バックエンドといった分類を理解することで、半導体の全体像を立体的に把握できるでしょう。この基礎を押さえることが、次の工程であるリソグラフィ・成膜・エッチングなどの専門的な理解への第一歩となります。